Innocent_Mechanical Engineer

機械系エンジニアの雑記です

【書評】"構造の世界 ~なぜ物体は崩れ落ちないでいられるか~" (Structures or Why Things Don't Fall Down) J.E. ゴードン

初書評を投稿。 1. 書名 構造の世界 ~なぜ物体は崩れ落ちないでいられるか~(原著名:Structures or Why Things Don't Fall Down)

2. 著者・訳者  J.E.ゴードン ・石川廣三

3. 読み始めたきっかけ  元々読もうと思ったのは,私が尊敬するイーロンマスクがお勧めする本だから。(http://www.businessinsider.com/elon-musk-book-recommendations-2015-7)

その中でも,材料力学の基礎を勉強できるということで,こちらの本を読み始めた。

最近,会社で機械設計の仕事をしていて,4力学の中でも材料力学を一番使うと感じているので,勉強を始めている。

大学時代も勉強したはずだが,研究室は熱流体が専門だった + 材料力学は面白くないと思っており熱心に取り組まなかったため,再勉強が必要...。

なお,この本はKindleで原著(英語)を一通り読んだ。それで大体の概要は理解できたが,細かいところがわからなっため,結局,日本語版を紙媒体で購入した。

4. 書評  結論としては,材料力学/構造力学の基礎を学ぶ上で非常に素晴らしい本だと思う。普通の本/教科書と違って,無味乾燥な数式は使われていない。

そのため,もちろん実際に強度計算などを行う上では使えないが,逆に強度計算をする上でその式がなぜそうなっているのか理解するのに役に立つ。

各構造物(昔の教会,橋,etc),輸送機関(船, 車など)から生物の皮膚や骨がなぜそのような構造になっているのか,過去の実際にあった事故例を

交えながら紹介しており,非常に読み物としても面白い。大学の授業では,この本に書かれているようなことを講義して欲しいと心底思う...。あとで,教科書を見ればわかることを授業してもあまり意味

がないと思うのだが....。この本を読めば,材料力学に興味を持って更に勉強する気持ちが湧くはず。

ヤング率/引張強度/生産に要するエネルギーをいろんな材料で比較しているのが興味深い。必ずしもなんでもかんでも金属が優れているわけではない!

・たとえば,同じ人体の中にある筋肉と腱であるが,腱の方が筋肉よりも800倍も引張強度がある。同じ人体の中で同じ程度の強さが伝わるのに,筋肉と腱の断面積は圧倒的に違うことが理解できる。

・同一構造の異なる部分でも最適な剛性や強度や弾力性の妥協点は異なる。生物組織はそれらの性質を自由に駆使できる点で有利である。 → 例えば,"クモの巣は構造上,主要部分をなす放射状の長い糸は,ハエを捕らえる役をする円周方向の短い糸に比べて,3倍の剛性を持つ。" → こういう特性は蜘蛛の糸の量産化の成功に関係あるのだろうか??(https://www.spiber.jp/ 蜘蛛の糸量産化に成功しているベンチャー Spiber)

・ヤング率を材料の比重で割ったE/ρは,所要の剛性を得るために必要な材料の重量で,構造的効率と呼べる。 → この面でいうと,伝統的な材料である木材やれんがは実は非常に優れている。 筆者は,最近話題の炭素繊維複合材は生産に多大なエネルギーを必要とすることもあり,その開発に疑問を持つ立場にいる。 そういう風に考えると,上記紹介したSpiberは,どれぐらい生産必要エネルギーはどれぐらいなのだろうか?また,E/ρの値は? また,この本は1978年に発売されたものなので,炭素繊維の実態も大分変ってるかましれない。興味深いので今度調べてみようと思う。